Doctor'sライフ 12
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の成功戦略 医療機関の運営が軌道に乗り、「もう一つ分院を出してみようか」と考える先生もいると思います。これまで本院で培ってきた診療ノウハウやスタッフ体制を活かし、診療圏を拡大することは、事業としても地域貢献としても非常に意義のある展開といえるでしょう。一方で、「分院展開=新規開業」と考える先生が多いです。しかし、分院展開にこそ、M&A(既存クリニックの承継)がお勧めの場面が多くあります。今回は、新規開業とM&Aそれぞれの特徴を比較しながら、分院展開におけるM&A活用の具体的なメリットをご紹介します。❶希望の時期や場所に物件(入居テナント)が見つかりやすい M&Aと異なり、新規開業であれば膨大な案件数の中から物件を選ぶことができるので、希望の時期や場所で物件が見つかりやすいです。❷本院の反省を活かした、好きな内装設計をすることができる 本院を開業した際に、例えば「受付はもっと広くすればよかった」「診察室とレントゲン操作室は隣にすればよかった」などと反省点があるはずです。その知見を分院で活かすには、やはりM&Aよりも新規開業が向いています。❸オペレーションやシステムを本院で築いたものと同じにすることができる オペレーションの面においても、電子カルテや予約システムを統一しやすいのは新規開業です。M&Aの場合は既に決まったシステムの変更をスタッフに承諾いただき、研修をする必要があります。 新規で分院を開業する場合、立地選定から始まり、テナント契約、内装工事、医療機器の導入、広告宣伝、そしてスタッフの採用と教育など、すべてを一から準備する必要があります。この過程では、診療科目やエリアにも寄りますが、例えテナント開業でも、設備投資だけで5,000万〜8,000万円前後の費用が必要となるケースがほとんどです。もちろん融資を活用して進めることは可能ですが、借入金が多くなればなるほど、分院で生み出さなければならない利益も高くなります。つまり、設備投資額が大きくなるほど、経営が「どれだけ患者が来てくれるか」による不確定性を伴うリスクも、比例して大きくなるということです。経営としてのリスク許容度を考えると、新規開業での分院展開には慎重な判断が求められます。 本院であれば、院長自身が経営を担い、利益がそのまま個人の事業所得となるため、生活費にも寄りますが、損益分岐点は低くすることもできます。しかし、分院は分院長を雇用する形です。ここで問題になるのが、分院長の役員報酬が開業初月から発生するという点です。例え患者数が少なくても、役員報酬は毎月固定で支払われることになります。そのため、損益分岐点が初月から高くなり、黒字化までに数ヶ月〜1年以上かかることも珍しくありません。その間の運転資金(原価、家賃、人件費、その他経費など)を十分に確保しておかないと、資金ショートするリスクも存在します。つまり、新規開業で分院展開を行う場合、設備投資に加え、初年度の運転資金として、個人開業のときよりも多額の予算が必要になることもあるということです。❸集患の必要性 分院長を雇ったからといって、その医師が本院の院長(理事長)と同じように経営的な視点を持ち、患者増加のために努力してくれるとは限りません。実際、「自分は来院した患者への医療提供だけやっていれば良い」「集患は本院が考えてくれるはず」というスタンスでいる、雇われ院長も多く存在します。そのため、分院ではなかなか患者が増えないケースも少なくありません。 M&Aによって既存のクリニックを引き継ぐ場合、内装工事や機器導入にかかるコストを大幅に削減できます。確かに一定の買収資金は必要になりますが、それはつまり、設備の状態がとても良いか、「営業権」がしっかりとついているということです。これについては、営業権が高く評価されている=すでに黒字で経営されているとも言えます。初月から利益が出ているクリニックであれば、その分投資回収も早く、資金繰りが非常に楽になります。 M&Aの大きなメリットともいえるのが、「初日から患者が来てくれる」という点です。新規開業の場合は、分院展開の場合でも患者はゼロ人からのスタートですが、M&Aであればすでに地域に根差した診療体制ができています。継続通院中の患者がいる状態で引き継げるため、黒❶ 投資予算の高さ❷ 多額の運転資金の確保 6❶ 投資予算を抑えることができる❷ 最初から患者がいるはじめに分院展開を新規開業で行うメリット分院展開を新規開業で行う難しさ分院展開をM&Aで行うメリット新規開業とM&Aはどちらを選ぶのがよいのか分院展開

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