Doctor'sライフ 10
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が通ることは皆無で、院長は「親の目が黒いうちは何も言わない」と決めているため、表面上争いはないが、周囲には「クリニックの経営が危うくなっても自分の責任ではない」ともらしている。【事例2】 父親が開業したDクリニックを息子が承継。承継してみて、医療点数のつけ方が新制度に対応していないなど、すべてが旧態依然としていることに驚いた。医療DX推進体制整備加算を取得したいと言えば初期投資がもったいないと却下され、効率化を目的とした人材の入れ替えにも「長く貢献してくれたから」と反対されるなど、経営をめぐり親子でことごとく対立。院長は理事長に対し、医師として一定のリスペクトはあるものの、なるべく早期に引退してほしいと考えている。 自分のクリニックはできれば身内に承継してほしいと考える院長先生・理事長先生も多いことでしょう。しかし、それは本当にベストな選択なのでしょうか。親族内承継で起きがちな問題や注意点、第三者承継との違いについて、医療機関M&Aの専門家が解説します。「親族内承継」のリアルと  第三者承継のメリット親族内承継は事業承継の理想の形? 息子や娘が医学の道に進み、研鑽を積んで医師として頼もしく成長、クリニックを承継して自分の引退後も末永く地域医療を担ってくれることは、院長先生・理事長先生にとっては理想的な形に思えるかもしれません。そのようにして代々承継され、地域で信頼を集めているクリニックも多数あります。一方で親族内承継は、しっかり線引きをしないと経営を圧迫し、家族関係までも悪化、引いては地域医療の崩壊につながるケースが少なくないのも事実です。親族内経営ではどのようなトラブルが起きやすいのでしょうか。具体的な例で見ていきましょう。親族内承継トラブル事例【事例1】 父親が開業し、息子が承継したS医院。承継後も父親は理事長として週1コマ診療にあたっている。院長の意見形だけの承継が行われやすい理由 このようなケースでは共通して、経営権の委譲が明確になされておらず、医療法人の出資持分移転すら行われていない場合が多く見られます。親族内承継における出資持分の移転の方法としては相続、贈与、譲渡があり、相続または贈与によって出資持分を承継する場合には、承継した親族に相続税または贈与税が課されます。また、譲渡によって出資持分を承継した場合には、譲り受けた側に時価と譲渡価格の差額に対して贈与税が課されます。こうしたことから後継者への配慮もあって、実際は出資持分を譲渡しないまま、形だけ承継している場合が多く見られます。 さらに、医療法人の場合は株式会社と異なり、出資持分を譲渡しただけでは議決権などの経営権を承継することにならないため、出資持分を譲渡した後であっても、理事長が変わらず采配を振るい続けるということが行われがちです。しっかりした「線引き」が親族内承継のポイント 親族内承継をして院長を退いた理事長の多くは、出勤日数は月1回などに減っているのに、毎日出勤していた院長時代と変わらぬ給与を受け取っています。すると、経営的にみると収益は変わらないのに支出が二重になっており、この負担が経営を圧迫することも見逃せません。 本来は承継と同時に出資持分移転を行い、理事長は退職金がわりの一時金を受け取る一方で、給与は出勤日数に応じて減額するのがよいでしょう。院長が慣れるまで経営権の譲渡は難しいという場合も、時期を決めて早めに経営権を譲り、理事長は一歩引いて経営をサポートするというのが理想的です。6

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